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3.コーポレート・ブランドという概念

2000年3月、一橋大学の伊藤邦雄教授が『コーポレートブランド経営』(日本経済新聞社刊)という本を発表したことを機に、「コーポレート・ブランド」という概念が日本の経済界で広く一般に認識されるようになりました。

主として商品を売るためのブランド戦略については、これまでマーケティングや広告の世界において、デビッド・アーカー氏など多くの研究者が様々なアプローチを試みてきました。しかし、伊藤氏は単に商品ブランドの存在だけでなく、それらの製品やサービスを提供する企業をひとつの財とみなし、株式市場において売買される企業価値のブランドプレミアムに着目したのです。

コーポレート・ブランド価値は、バランスシート上の資産とその企業の持つ無形資産に対するプレミアム価値を包含しており、同氏はその価値測定というアプローチを試みています。非常に強いコーポレート・ブランドを持つ企業の実例として、SONYなどの企業を例に挙げ、その強さの秘密を解説しています。

同氏はコーポレート・ブランドを重視した経営を行うことで、単に資本市場における企業価値向上のメリットだけでなく、人・物・金が流動化する国際的な大競争時代において、企業が顧客・従業員・株主からの高いロイヤリティを獲得できるとしています。すなわちコーポレート・ブランド重視の経営は、顧客・従業員・株主という利害関係者に、対立関係ではなくWin-Win-Winの良好な関係を構築し、更なる企業価値向上を可能にするというゴールデントライアングルを実現するというのです。

●プロダクト・ブランドとマネージメント・ブランド

IMC理論を軸にブランドについて様々な仮説と実践を試みていた私達も、「コーポレート・ブランド経営」という概念が非常に素晴らしいものであると認識し賛同しています。コーポレート・ブランドという概念は、それまでの商品やサービスを売り込むためだけのブランド・マーケティングの限界を、ブレイクスルーするものであると確信させてくれました。しかしこの概念は、実務家としての私達に、いかにしてコーポレート・ブランドを強化し企業経営の実践的経営戦略手法として落とし込むことができるか、という課題を同時に与えました。

コーポレート・ブランドは、他社との比較においてマクロの視点から企業全体のビジネス・モデル及び業績のポジションの優位性を認識するには、非常に便利な概念ではあります。しかし、いったんコーポレート・ブランド強化を目標に挙げて、企業が実践に移していくには大変難しい目標となってしまうのです。コーポレート・ブランドという概念は全社的かつ抽象的なものとなってしまうために、組織が細分化された大企業においては、一体どこから手を付けるべきなのか、どのように着手すべきなのかが全く明確になっておらず、計画はあっという間に座礁してしまうのです。企業が会社の各組織を代表する人間を招集して委員会を作り、コーポレート・ブランドについて会議でディスカッションを繰り返してみても、雲をつかむような抽象論に終始するばかりで、一向にその道筋は見えてこないのです。

そこで私達は独自に、コーポレート・ブランドをさらに分解することを試みました。つまり、コーポレート・ブランドとはプロダクト・ブランド(商品のブランド)とマネージメント・ブランド(経営のブランド)の総和であると定義し直したのです。それらは、次のように企業の発展段階を思い浮かべると分かりやすいと思います。

企業規模が小さいうちは、コーポレート・ブランドのほとんどはプロダクト・ブランドだけで占められていると考えられます。この段階では、商品やサービスそのものが企業のブランドを形作っています。やがてその事業が順調に拡大し、その商品やサービスの社会的影響度が高くなってくると、商店や町工場から企業へと変貌を遂げ、それにつれて経営が発達する段階に至ります。この段階で、商品やサービスに対する評価だけでなく、主として信用力という形で経営に対する社会の評価が現れ始めるのです。

私達は、この経営に対する社会的評価のことをマネージメント・ブランド(経営のブランド)と定義することにしました。顧客は商品やサービスを購入する際、その商品やサービスの持つ機能やメリットに対する評価(商品ブランド)を検討するだけでなく、どのような企業がその商品やサービスを提供しているか(経営のブランド)を評価し、主としてリスク要因(損をするのではないか、製品がすぐに壊れてしまうのではないか、長期的なアフターサービスは大丈夫かなど)についても総合判断を下し、購買行動に出るのです。またマネージメント・ブランドは、拡大する企業規模の維持に必要な融資を受ける際に、金融機関の下す判断に対しても大きな影響を与えるだけでなく、組織拡大のための人材募集に関しても大きな影響力を持つのです。株式公開は、飛躍的にマネージメント・ブランド(経営のブランド)を強化することにつながるため、日本の上場企業の多くは資金調達手段というだけでなく、社会的信用形成の目的もあって上場しているケースも多いことは、周知の事実です。近年持ち株会社制をとる企業が増えていますが、持ち株会社こそマネージメント・ブランド(経営のブランド)そのものを担う会社であり、その傘下にある事業会社群はプロダクト・ブランド(商品のブランド)を担当する会社と考えると分かりやすいと思います。

●CHART コーポレート・ブランド・モデル

●ブランディングとIMC

プロダクト・ブランド(商品のブランド)はご存知の通り、企業の営業活動及び販売促進・広告宣伝活動といった消費者市場を中心とするマーケティング活動とコミュニケーション活動により形成されます。

一方、マネージメント・ブランド(経営のブランド)は、最初は製品やサービスを通じた社会的信用形成に始まり、企業規模が大きくなるにつれてリクルート・コミュニケーション活動という労働市場を中心としたコミュニケーション活動により顕在化し始めます。次に、株主とのIR活動・銀行などを中心とする金融機関とのデットIRといった金融資本市場に対するコミュニケーション活動によって大きく形成されていきます。

プロダクト・ブランド(商品のブランド)が、消費者というかなり広範囲の利害関係者(ステーク・ホルダー)を対象にしているのに対して、マネージメント・ブランド(経営のブランド)は、従業員や株主・金融機関といったその企業と運命共同体的な深い利害関係者(ステーク・ホルダー)を中心に形成される傾向があるという特性を持っています。

しかし、高度に発達を遂げてきた現代社会においては、消費者・従業員・株主という利害関係者を単純に区分けすることは不可能であるということにも十分注意する必要があります。消費者や従業員も株主となりうるし、株主も同時に消費者であることがほとんどです。

したがって、プロダクト・ブランドを強化することを目的としたコミュニケーションを実施する場合と、マネージメント・ブランドを強化することを目的としたコミュニケーションを実施する場合において、それぞれに対して最大限に効果を上げるコミュニケーション表現手法の使い分けを明確に行うと同時に、それぞれがバラバラにならないように同一企業としてのメッセージの一貫性を保つということが重要となってきます。

●「北野武」と「ビートたけし」

「北野 武」と「ビート たけし」の例は、ブランド戦略を考える上で大変参考になる事例です。「北野 武」さんは最初、持ち前の毒舌を武器にして漫才ブームに乗り、売れっ子漫才師「ビート たけし」として一世を風靡しました。「ビート たけし」はサービス・ブランドであり、本名「北野 武」はマネージメント・ブランドです。当時は、「ビート たけし」というサービス・ブランドを演じる「北野 武」でしたが、だんだんと彼を取り巻く利害関係者は、彼本来の人柄である「北野 武」に対して信頼感や尊敬といった強いロイヤリティを持つようになり、「北野 武」というマネージメント・ブランドは大きな求心力を持つようになっていました。その事実を示すものとして、ご存知のように栄枯盛衰の激しいマスコミの世界で、いろんなスキャンダルや大きな事故に遭遇しても、関係者の協力により見事に「ビート たけし」というサービス・ブランドを維持し、トップブランドとして守ることができたのです。

その後タレント収入で得た多額のお金を使い、あくまで趣味として映画製作をしていたところ、映画監督「北野 武」として世界的に評価されるようになり、マネージメント・ブランド「北野 武」は、「世界の北野」として一躍有名になり、サービス・ブランドとしても機能するようになってきました。現在はタレント「ビート たけし」と映画監督「北野 武」という2つのブランドを番組のコンセプトによって、マルチ・ブランド戦略で器用に演じ分けているだけでなく、「オフィス北野」として番組の企画にまで領域を広げています。

最近彼は「北野 武」として出演していた番組の中で将来どんなふうになりたいかという質問を受け、次のように答えています。「ごはんのような存在になれたらいいと思うな。いろんなタレントの人と一緒に番組に出て、他のタレントの人がいろんな味のするおかずであるとすれば、自分は『ごはん』。どうということはないけど、絶対にいなくっちゃいけない存在っていうか…。おかずが引き立つ存在っていうか…」。このさりげない発言の中に、彼のブランド・マネージメントの戦略意識を見てとることができます。つまり、「ビート たけし」ブランドは「毒舌」というブランド・ポジションであり、「北野 武」というブランドは、「ごはん」というブランド・ポジションであるということを、明確に意識しており、それを企画から参画した番組ごとに演じ分けているわけです。

これは、同じひとりの人間でありながら、複数のブランド・ポジションを演じ分けることができるという点で、卓越したブランド・マネージメント力を持っていると同時に、浮き沈みの激しい芸能界において、「ごはん」というブランド・ポジションを取りつつ長期的に持続可能なブランドとしてコントロールしようとする戦略は、単に才能という言葉だけで語ることのできない緻密で戦略的な計算があるということに着目すべきでしょう。